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日々是好日

トキオ*1:東野圭吾

 息子は不治の病に犯されていた
そしてついに、意識が戻らないかもしれない所まで来ている
しかし彼らには分かっていた、この日が来ることは・・・


そして夫が妻に語りかける・・・
「じつは話しておきたい事がある。息子・・・時生のことだ」
それはとても信じられない話だった

夫は・・・彼は20年以上も前に息子・・・トキオと名乗る青年と会っていると言う

彼、拓実は23歳だった
勢いで仕事を辞め「花やしき」でふらふらとしているとトキオと出会う
なりゆきで拓実の家まで行くと、彼女が出迎えてくれた
しかしトキオの母ではなく、千鶴という女性だった
「綺麗な女だろ?」と聞く拓実
「でも結婚する気はないんだろ?」と聞き返すトキオ
「今はまだ、でも結婚する気だ」と拓実が言うとトキオは複雑な表情をする
ここらへん、トキオが拓実の息子だという読者の前知識を、巧みに操ってるなと思う

その後も千鶴と拓実の仲の良い所を見せられて不安になるトキオ(と読者←俺かよw)
しかし事件は唐突に起きる

突然千鶴が姿を消した
手がかりは何もない・・・
さらに悪い事に、なにやら事件に巻き込まれているらしく
怪しい集団が千鶴を探してくれと言って大金を寄越す
勿論そんな金を受け取るわけにはいかないが、当座の金もなく困っていると
トキオが妙案を浮かべる・・・その案とは・・・


数少ない手がかりを追って、途中名古屋に寄り、大阪へ
ここらへんは目が離せない展開になっていく
やがて千鶴の友人や、謎の集団、怪しい事件に巻き込まれるが
トキオの旅の目的も同時に達成されようとしていた

しかし拓実は、彼の知っている父親像とは似ても似つかない性格だった
煮え切らない性格、自分の人生がどん底なのは全て周りのせいにして
いつかは大儲けしてやる、が口癖になっていた

そんな拓実にトキオは、彼の出生の秘密を書いた手紙を渡される
それは、実母がどんな思いで拓実を生んだか、父はどんな人だったか
貧乏のどん底に居たとき、なんとしても拓実だけは生かそうと断腸の思いで養子に出した事。
苦悩と後悔と自責の念と、拓実への優しさが
そしてまだ見ぬ亡き実父の言葉が綴られていた


しかし拓実は手紙を見ても毒づく
流石にトキオは激昂し、掴み倒す
「あんたに死を前にしてる人間の気持ちがわかるかよ」
ふざけるなよ、と
それは若くして難病を患った、トキオだから言える言葉だったのだろう

たとえ死を前にしても、死ぬ直前まで人間は夢を見ていられる
好きな人が生きている、ただそれだけで未来を感じられる
たとえ一瞬でも生きている実感があれば、幸せを感じられる

そんな言葉を聞いて目頭が熱くなるのを感じた
自分の不幸を誰かのせいにしていないだろうか?
今ある幸せを見逃していないだろうか?

トキオは言う、自分は生まれてきて幸せだったと

それは只、陳腐な言葉ではなく、彼をして言わしめた重みのある言葉だった

この作品の主眼は此処に或る
勿論、作品として飽きさせないような展開は流石である
タイムスリップという在り来たりの題材にもかかわらず
読む手が止まらず、とても楽しませて貰った
気がつけば読み終えている、そんな感じである