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暗号解読


暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで


また小説ではないのだけど、暗号の解説書


昔から軍事目的などでメッセージを送る場合、敵方にメッセージを読まれる可能性がある為、暗号技術は必然的に発達してきた。
それは暗号解読者と暗号製作者の終わりなき戦いの記録でもあった


この本はロゼッタストーン解読にまつわる話や、古くはカサエル暗号、そして現代の公開鍵暗号、未来の量子暗号の話をわかりやすくまとめている。


初期の暗号は、1つの文字を後ろにずらしたり、他の文字や記号と置き換えたりするような
単アルファベット換字式暗号というものだった。
これは後に頻度分析という解読法が発見され、その意味を失う

文字を記号に置き換える暗号で有名なものと言えば、コナン・ドイルの小説「シャーロックホームズ」に出てくる「踊る人形」だろうか?


次に解読不能とされた多アルファベット換字式のヴィジュネル暗号だが、イギリスのバベッジが解読法を編み出した。しかしその功績は世間に知られることはなかった。
イギリスは戦時中で、解読法が編み出された事を公表するのを避けたのだ。そうすれば敵方は、安全と思われているヴィジュネル暗号を使い、イギリスはその暗号文を読むことができるのだから


こうした隠蔽工作はしばしば行われ、それが為に暗号解読の名誉を他に奪われたり、暗号解読者の地位を低くしてしまっている


第二次世界大戦時、ドイツはエニグマという暗号機を使い通信を行っていた。これまでの手作業の暗号化とは違い、自動で強力暗号文を作り出し、またエニグマを使えば暗号文を簡単に解読できるのだった。
暗号化のパターンは1京(1兆の1万倍)を越し、暗号鍵を手に入れなければ解読は不可能とされた。
しかしポーランドのレイェフスキが解読のとっかかりを作ると、ポーランド敗戦後、イギリスの暗号解読チームがその仕事を受け継いだ。その中にはチューリングマシンの発案者であるアラン・チューリングも居た


チューリングエニグマ暗号解読機械を発明するなど、イギリスに大きく貢献したが、前例に漏れず、暗号解読作業は極秘とされたため、世間には功績を認められていなかった。それが為にゲイという謗りを受けると、世間の冷たい目を避けるように自殺する事となる


これまでは暗号解読者が優位に立っていたが、解読不能な暗号も出現した。
ランダムな鍵を毎回変えて通信するワンパット暗号。
コンピュータでも解読するには1000年かかる素数を使った公開鍵暗号(RSA)
素数を使った暗号は、量子コンピュータの前では無力だが、その時代には「絶対に解読されない」量子暗号が出現しているだろう。
これまでの暗号は「解読に時間がかかりすぎる為」に解読不能とされたが、量子暗号は「解読されない」のである



暗号化の技術は日々進歩し、今ではインターネットの通信には不可欠になってきた。
しかし、強力な暗号は国家の安全を脅かすという考え方もある。
テロや戦争の首謀者が暗号を使った場合、暗号解読者が優位に立てばテロや戦争を未然に防ぐという事が可能だ。だが暗号作成者が優位な立場にあれば、これは防ぎようがない


しかし国家が暗号解読の方法を握っていれば個人のプライバシーが問題になる。通信を監視するため、個人間のメッセージを全て読まれてしまうのだ


プライバシーと安全、どちらに重きを置くかによってこの問題は流動的に変わっていく、現在はプライバシー重視ということで、RSAほか強力な暗号が通信に使われている。しかし、将来テロや戦争が起きた場合はこの限りではないだろう


アメリカでは現在もNSAという暗号解読チームが存在し、強力な暗号の流布に懸念を示している。ハリウッド映画なんかでは、適役として登場し暗号推進派にとって良い広告塔になっているようだ



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