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日々是好日

アルジャーノンに花束を*1:ダニエル・キイス

 アルジャーノンは天才だった
彼を天才児たらしめたのは実験によるものだったが、彼はそれでも満足だった
毎日の日課の迷路遊びも、最近は失敗する気がしない
なにより、他の誰よりも科学に貢献しているという自負がある
ゆくゆくは彼と同じ境遇の仲間が増えて行くだろう
そう思って仲間の為の礎となる覚悟だった

来るべきニューヨークにおける実験結果の発表では、彼は科学が生んだ寵児となるはずであった
だが、思わぬライバルが現れる
パン屋のチャーリー・ゴードンだ

(以下ネタバレあり)

初めて実験室で彼を見たとき「おや?」と思った
チャーリーは今まで見た人の、誰とも違っていた
話す言葉が拙い、動きが散漫、何事にも興味を示しじっと見入る 全体的に幼い雰囲気・・・彼は子供のようだと思った

チャーリーはれっきとした大人である、年は32と言っていた
だがチャーリーは知能障害者だった、IQも68しかない
それが証拠に、迷路を使った実験ではアルジャーノンがいつも勝っている
チャーリーは同じ行き止まりをいったりきたりと、いつになっても迷路から脱出できない

だけど彼にはわかっていた
きっと先生たちはチャーリーにも同じ実験をしている、と
それがチャーリーを、天才の階段を上らせる事だと知っている
チャーリーの知能は飛躍的に上昇するだろう
それはつまり、アルジャーノンの地位をおとしめる事なのだ
彼は一度、ゴツンと迷路に頭をぶつけた


アルジャーノンの予想通りニューヨークにおける発表会はチャーリーの独断場だった
そこで彼はある計画を実行に移すことにした
発表会の席上、逃げ出すのである

ふとチャーリーの方を見ると、目が合った
どうやらチャーリーも堪り兼ねるところがあるらしく、彼の意思を汲み取ったようだ
彼らは良きライバルであり、そして良き親友なのだ

「走れ!アルジャーノン!」
チャーリーが叫ぶ
アルジャーノンはホテルの部屋を抜け、一人未知の世界へと飛び出す
もう彼を覆う檻はなくなった、彼は自由なのだ


 ちょっとアルジャーノンの視点で物語を考えてみた
物語は、チャーリー・ゴードンの日記という形式でずっと一人称なのだけれども
それがこの物語を際立たせてる
特に冒頭から始まる、拙い日本語
それが中盤に掛けて、どんどん言語を習得し、読者が読むのにも苦労するような文体へと変化して行く様
とにかく最初の数ページは、読み飛ばさずに我慢の子である
それがラストに向けての感動の序曲になるのだから

この作品は、元は中編として書かれていて、なんと発表は50年近くも前!
アシモフといい勝負、だと思ってたら
ヒューゴ賞(SF作品の賞)の審査委員長がアシモフだったらしい!
半世紀経っても色あせない彼らの作品は素直に感心する

ユースケサンタマリアの主演でドラマ化したのは記憶に新しいと思うし
アシモフの作品も「アイ・ボット」という映画となって、昨年公開された
もっともこの作品のシナリオは、アシモフのそれとは全然違うのだけれど・・・

こういった作品に出会うと、本読み冥利に尽きるといったところだろう
素晴らしい作品はいつ見ても素晴らしい
ただ、この作品を紹介してたブログの名前を忘れてしまった^^;
記憶力が衰退してるなぁ・・・
チャーリーの1/10でもいいから天才っぷりを分けてほしいものだ
だけどそれを願うにはあまりにも代償が大きすぎる
欲望は、いつも危険と隣り合わせだ