sidewalkcafe blog

日々是好日

或る誕生日の記憶(2)

 休みの日に早く目が覚める。べつにそれ自体は大した事でもない、だけどこの行動はいつから始まったのか・・・そう考えるとやはり「あの頃」からだったように思う。
 それまで自分は休みの日といえば昼過ぎ、遅い時には3時を過ぎて起きていた。特に何をすることも無いのでゴロゴロしていただけ、出かけるのも必然的に夕方から、帰りはいつも暗くなってからだった。

 その電話がかかって来たのは早朝、しかも携帯に映し出された時刻は午前4時を指していた。だけど名前を確認すると出ずにはいられなかった。
「もしもし」
携帯の向こうで女性が話し出す、相変わらずのしゃがり声だが、それが彼女である事は疑いようがなかった。
電話番号を知ったのはその少し前で、彼女の肉声は数回しか聞いたことがなかったが、声はいつも枯れていた。病気、もしくは薬の所為らしい。
本人曰く「前はもっと綺麗な声だった」らしいのだが、それを確認するすべは持ち合わせていなかった。
また薬漬けの彼女は昼夜の感覚がなくなってたらしい。後で彼女の友人に聞いた話では、良く真夜中・早朝に電話がかかってくるから相手をしないで、話しても何も覚えていないから、という事だった。

 実際に何十分か・・・若しくは小一時間ほど話していたかもしれないが・・・話し終えた後、用事か何かで一旦彼女が電話から離れるとそのまま戻ってこなくなり。後日電話のことを確認するとまったくもって何も覚えていない、との事だった。

 しかし当時の自分は落胆する事無く、さびしいのならいつでも電話をしてくれていいとの旨を伝えたのだ。その後2度3度と彼女からの電話が、決まって早朝にかかってくることとなった。

 しかし、最後の日の電話だけは取れなかった。今でも悔やまれることだ。
 日曜日の朝、起きて携帯を見ると彼女からの着信履歴が残っていた、時間は朝の4時少し前。
 それで自分は安心し、昼頃にまたかけ直す事にした。
 しかし、その電話は二度と繋がる事はなかったのだ・・・